”橈骨動脈の基礎知識”

*********************************

橈骨動脈の解剖 

 右手に向かう動脈の話をします。
 心臓の左心室から上行大動脈が出た後、まず腕頭動脈が分岐します。さらに頭に向か
う右総頚動脈と右腕方向に向かう右液窩動脈に分かれます。右液窩動脈は上腕付近では
上腕動脈と呼ばれ、右肘付近に達します。



 ここで2本の動脈に分かれ、右手の親指側を走る橈骨動脈、小指側を走る尺骨動脈と
なります。尺骨動脈からは前骨間動脈も分かれますが、この3本の動脈は手のひらでま
た一緒になって動脈のアーチ(掌弓動脈)を形成し、そこから5本の指へ向かう動脈が
分かれます。
 上腕動脈は1本ですが、手のひらに血液を送る太い動脈は(橈骨動脈と尺骨動脈)2
本あります。この事が、橈骨動脈にトラブルが起こっても、尺骨動脈からの流れが手の
ひらに血流を供給して、手首のしびれや虚血症状が出ない理由です。

*********************************

・手首付近の神経の解剖

 神経は、液窩(脇の下)付近からすでに3本あり、右腕の真ん中を走る正中神経、親
指側を走る橈骨神経、小指側を走る尺骨神経と呼ばれています。
 下図は右手首の輪切りを手のひら側から見た断面図ですが、橈骨動脈は正中神経と離
れています。



 肘の付近では上腕動脈と正中神経がすぐ近くにあり、上腕動脈アプローチで圧迫止血
がうまく行かず大血腫を作った時など、正中神経を圧迫して神経障害の合併症を起こす
ことがあります。しかし、橈骨動脈はすぐそばに神経が走っておらず、また橈骨動脈が
比較的浅いところを走っているので、術後の圧迫止血が的確に施行でき、もし内出血し
ても大きな血腫をつくるスペースもありません。これが、術後の大血腫や神経障害の頻
度が著しく低い理由です。

*********************************

・橈骨動脈径と尺骨動脈径

 以下は湘南鎌倉総合病院・齋藤滋先生にデータを提供していただきました。

 日本人の橈骨動脈径についてはいくつかの文献がありますが、ここでは齋藤先生に提
供していただいたデータを提示します。

 以下のグラフは日本人の男女別の橈骨動脈径の分布図です。このグラフの見方は、男
性(Male)で2.6mm以上ある人は全体の約80%、3.0mm以上ある人は全体の約60%、3.4mm
以上ある人は約40%ということです。女性(Female)では2.6mm以上は約60%、3.0mm以
上は約40%です。



 TRA・TRIでは橈骨動脈とシース外径の関係(比率)が問題となりますが、そのシース
外径を基準として見れば、6Fr.シース径より大きい橈骨動脈径を持っているのは、男性
で約90%、女性で約80%です。7Fr.シースだと男性で約70%、女性で約50%となりま
す。

 同じ人の橈骨動脈径と尺骨動脈径の両方を計測し、その関係を示したものが下の図で
す。縦軸が橈骨動脈径、横軸が尺骨動脈(Ulnar Artery)径です。両者は正比例の関係
で、橈骨動脈が大きい人は尺骨動脈も大きいようです。冠動脈は左回旋枝が大きければ
右冠動脈は小さいという反比例の関係なので、手のひらへの血流を二重支配している両
者の関係も反比例と予想していたのですが、意外にも正比例の関係でした。




*********************************