以下は熊本労災病院・松村敏幸先生に執筆(2001年1月)していただきました。
5Fr Intervention (5Fr TRI)
【はじめに】
Medtronic AVE社より5Fr (内腔0.058 ID) のPTCA用Guiding Catheter (ZUMA2)が発売されて以来、種々のdeviceを5Frにて使用することが可能となり、以前よりまして5FrInterventionが普及してきました。実際、本院(熊本労災病院)でも全PCIに比する5Fr
TRIの割合は急激に増加しており、間違いなく今後のTRIにおける重要な選択肢となりうると考えています。ここでは本院での使用経験を含め、5Fr
Intervention、特に5Fr TRIに焦点をあて解説をすすめていきたいと考えています。
【海外での使用】
ヨーロッパでの使用が多く、5Fr Intervention は(ZUMA2使用の)14%を占めるようです。特に西ヨーロッパでは増加傾向にあるらしいのですが、TRIというよりは、TFIにおいて5Frが使用されているみたいで、むしろ圧迫時間の短縮というところに利点を見出しているようです。
【日本での使用】
ヨーロッパと比較すると、5Fr Intervention は普及しておらず、(ZUMA2使用の)4%程度で増加傾向にもありません。月間使用本数も100本〜150本程度(2000年11月現在)に収まっています。関西より関東での使用が目立ち、結構地域差があるようで
す。日本ではTRIで使用される頻度が高く、puncture sizeに利点を見出しているようです。
【5Fr Interventionの利点】
■ Small Access Lumen
穿刺部位(シース)のサイズをより小さくできるということは、TRIにおいていろんな利点を生みます。
1. Radial Artery Spasmによる合併症を軽減する。
2. Radial Artery の閉塞を予防する。
帝京の落合先生/竹下先生から教えていただいたデータによるとradialの術後閉塞は術前の橈骨動脈径が平均1.9mmと圧倒的に細い血管に多く、シース/橈骨動脈径比も1.4と、血管径に対して大き目のシースを使用すると閉塞が起きるということでした
(非閉塞群は径が平均2.7mm、比が1.0)。
3. 診断カテと治療用のデバイスのアクセスサイズが同一である。
また九州の某地域では「心カテ(診断カテ:5Fr)をしてみたら、u-APだったので、シースサイズをup(6Fr)してPCIを試行。そうしたら診断カテ用のシース(5Fr)が削られた。」という嘘みたいな話も聞きました。つまりPTCAが予測されるときは初めから
大き目のシースを使用しなさい、ということだと思いますが。
もちろんTFIにおいても穿刺部位のサイズが小さいというのは(ある意味ではTRI以上に)利点があります。
1. 大腿穿刺部の出血性合併症の低減
2. 圧迫時間の短縮
3. クロージャーデバイスが不要
4. 早期歩行が可能
5. 入院期間の短縮
年間1000本以上TFI後、大腿動脈を抑えているレジデントの先生に話を聞くと「6Fだったら10分で止血して見せます。もちろん翌日退院もまったく問題ありません。」と豪語されていましたが、医師の数に制限のある大部分の中小病院ではその10分の圧迫時間がストレスに感じる時があります。さすがにTRIでは要手圧迫の必要がなく(出血性合併症もない)、そういう意味では6FrTRIと比較して5FrTRIは利点ととらえられないようで、このことがTRIにおいて5Frがmajorにならない原因の一つとなっています。
■Deep Intubation Allows Supra-Selective Working
ディープエンゲージメントすることにより、狭窄部位直前までガイディングカテを挿入することが可能になり、超選択的手技が可能となります(もちろん多くのRadialistは必要であれば6Fでもかなりdeepにエンゲージされていますが)。
1. (症例によっては)標的病変の直近まで確実なデリバリーが可能である。
2. (症例によっては)ステントの脱落が回避できる。
3. (症例によっては)冠動脈入口部の損傷を防ぐことができる。
いずれも「症例によっては」というただし書きが必要となります。つまり「症例によっては」Deep Intubationすることによって逆の危険な場面にあうこともあるわけで、すべての症例でディープエンゲージメントによる超選択的手技が薦められるわけではありません(あたりまえですが)。
【5Fr Interventionの欠点】
■ UP Size (ex. Rotablator)
5Frにて使用可能であるデバイスが限られており、PCI施行中でのデバイスの変更は時によってシース、カテのサイズアップを余儀なくされることがあります。もっとも最近では5Frでも使用可能なIVUSも登場したり、と以前と比較して、5Frで使用可能なデバイスの選択の幅は広がってきました。5Fr適合デバイスに関しては、後の項目で述べることとします。
■ Air Embolism
ベンチュリー効果により、5Fr interventionではAir embolismの危険性が高くなります。はじめて5Fr
Interventionする術者は、このことにかなり注意してPCIする必要があります。術者が思っている以上に、Air embolismは高頻度で起こりうると考えてよいでしょう。本院では5FrTRI試行するときには、必ずY-connectorは開けっ放しにしておき多少血液を逆流させながら作業をします。またバルーン/ステントも通常よりゆっくりと進めていくことが必要です。頻回のフラッシュも必要です。それでも焦っているときは、ついつい6Frの感覚で操作してしまいAirをうってしまうこともありました。5Frの操作に慣れるまでは、Air
Embolismにはかなり気を使う必要があると考えます。リラップなどバルーンの特性も頭に入れておいたほうが良いでしょう。
■ Problems with Deep Intubation
5Fr interventionは、ガイディングのディープエンゲージメントが基本となります。このためディープエンゲージメントに伴う諸問題が起こりうる可能性があります。
1. ガイディングカテーテルによる血管解離。
2. 側枝の血流低下、側枝閉塞。
5Fr guidingは、術者が考えている以上にズルズルとdeepに入っていきます。それ故に病変部手前にある狭窄に対して気を使う必要があります。が、あえてそういう冠動脈に対しては5Fr
interventionを施行する必要は無いと考えます。
■ Visualization
ガイディング内にバルーンやステントがある場合は造影能が極端に落ち、標的血管の造影が通常より困難となります。このため多くの症例ではバルーンを一旦ガイディングから抜いてしまって造影を行います。まぁ、面倒といえば面倒ですね。あまりバルーンを入れたり出したりしているとair
embolismの危険性も高くなりますし。
■ Self-Mounted Stents
ベアマウントしたステントはプロファイルおよびバルーンへの固定の問題があり適しません。もちろん現在、日本ではほとんどあり得ない話でしょうが。
【Contraindications】
1. 極端に石灰化した病変
ある程度の石灰化であれば問題ないでしょう。
2. 分岐部病変
分岐部病変であっても、protectする必要性のない病変であれば問題ありません。も
ちろんKissingなんていうのは不可能ですが。
3. CTO
あくまでも噂ですが。CTOをRt. Radial 5Fr interventionにて施行中、対側造影を
Rt.brachial arteryから4Frで施行した。つまり右腕一本で、対側造影から全部やっ
てCTOを堀りあげてしまった。という話を、あくまでも噂で聞いたことがあります。
4. 標的病変部位の手前に、interventionの必要がない程度の中等度の病変が存在す
るとき。
ディープエンゲージメントされたガイディングカテにて問題が発生する可能性があり
ます。
5. Cutting BalloonやRotablatorが必要なとき
6. 急性心筋梗塞(特に早い手技が必要とされるとき)
焦って、容易にAir Embolismを起こす危険性が出てきます。ただし慣れてくると手技
時間(透視時間)自体はあまり6Fr interventionと比較しても変わらなくなります。
もちろん本院でもかなりの症例にてAMIを5Frで治療しています。
【5Fr適合デバイス】
【5Fr不適合デバイス】
http://www.5fptca.org/sitemapi.htm
上記のHPを参考にしてください。2000年8月現在で使用しうる5Fr interventionに適したdeviceを評価してあります。