橈骨動脈スパスム発生予防
@ スパスム対策総論
橈骨動脈スパス対策には以下の事項が考えられます。
1、スパスム発生を予防する方法
1ー1、スパスムが発生しそうな患者のTRA施行を避ける。
1ー2、スパスム発生率が少しでも軽減できるシースを使用する。
1ー3、シースを入れる直前に、あるいは入れた直後に予防的に血管拡張
剤を注入する。
2、スパスムが発生しても安全に抜去する方法
2ー1、スパスムを緩和してシースを抜去する。
2ー2、シースの壁と血管内膜との摩擦を少しでも減少さる。
A スパスム発生予防と壁薄シース
<スパスムが発生しそうな患者のTRA施行を避ける>
橈骨動脈スパスムは前述したように、橈骨動脈径とシースの外径の比と関連しています。診断造影を行うシースサイズが決まっているなら、橈骨動脈経が大きければ大きいほどスパスム発生率は少なくなります。ですから、事前に橈骨動脈エコーを施行し、極端に橈骨動脈が細い人はTRA を見合わせる(たとえば2mm未満)、あるいは橈骨動脈エコーがなければ、触診にて細そう那患者さんを避けるなどの方法が考えられます。
<スパスム発生率が少しでも軽減できるシースを使用する>
橈骨動脈径が同じならば、一番簡単なのは、診断造影カテーテルのサイズを6Fr.から5Fr.や4Fr.に下げることです。しかしPTCAは6Fr.のガイドカテーテルがメインです(5Fr.インターベンションについては別項で)そこで、6Fr.シースの内腔はそのままで、シースの壁を薄くすることでシース全体の外径を小さくする方法があります。
もともとシースは、大腿動脈穿刺用に作られていて、大腿動脈や外腸骨動脈の屈曲に使用しても曲がったり折れたりしないように、壁を厚くし内腔がつぶれないように作ってあります。しかし、橈骨動脈にはシースが折れ曲がるほどのつよい屈曲はありません。そこで橈骨動脈専用シースなら壁が厚い必要がなく、薄くして外径を小さくし、少しでもスパスム発生率を下げる方が良いのです。
当院でシースの壁を0.05mm薄くし、外径にはシースの壁が2回含まれるので外径としては0.1mm小さくなった“壁薄シース”を使用しています。
<シースを入れる直前に、あるいは入れた直後に血管拡張剤を注入する>
TRI元祖のドクターキムニーはこの方法を推奨しています。シースを入れた直後にシースのフラッシュラインからニトログリセリンとCa拮抗剤(塩酸ベラパミル)を混ぜたカクテルを注入するのです。なぜ2剤を混ぜるかというと、ニトログリセリンのスパスム緩和力が他剤よりすぐれていることは文献にもありますが、ニトログリセリンは半減期が数分と短く、短時間で効果が消失してしまいます。それを補うのがCa拮抗剤で、こちらは比較的長く作用するので、カテ中のスパスム予防には良いと考えられています。穿刺によるスパスムをニトログリセリンで解除したあと、Ca拮抗剤で予防するという意味でしょう。
当院ではミリスロール(ニトログリセリン)を1ml、ワソラン(塩酸ベラパミル)も1ml取り、混ぜて2mlのカクテルにして注入していました。ただし、注入するときにはシースを入れた後ではいけません。シースを橈骨動脈に挿入してしまうと事実上橈骨動脈のフローはほとんどなくなり、動脈血は上腕動脈からほとんどすべてが尺骨動脈を通り手のひらに向かいます。“橈骨動脈にシースをいれたら、それが何フレンチのシースであろうと橈骨動脈にはほとんど血流がない”という論文報告があります。すなわち、シース挿入後にフラッシュラインから薬液を注入しても、シースの先端から出た薬液は橈骨動脈には作用せず、尺骨動脈側に作用すると考えられます。
そこで、以下の方法が実践的です。穿刺した後ワイヤーを肩付近まで上げて透視で本管であることを確認します。そこで穿刺針の外筒を橈骨動脈に押し込み一旦ワイヤーを抜きます。その外筒からカクテルを注入するとシース挿入前に橈骨動脈にカクテルを作用させることができます。
しかし、この方法の最大の問題点は、患者さんの橈骨動脈痛が大きいというところです。ほとんどの人が”顔をしかめる”ぐらいですから、かなり痛い(熱い)ようです。ただし、ミリスロールやワソランそのものの副作用(血圧低下や徐脈傾向)はほとんどありません。カクテルも施設によってはリドカイン(キシロカイン)を混ぜるところもあるなど様々です。
当院ではカクテル注入に対する患者さんの評判が悪いところから、カクテル注入を止めました。その代わり、他の薬剤を探して現在スタディ中です。この方法は患者さんの苦痛もなく大変良いと私は思っているのですが、スタディの結果が出たら報告します。