橈骨動脈穿刺とシース挿入
@ カテ室までの往復、カテ台の上の体位
患者さんは車椅子で病棟とカテ室を往復します。
カテ台の上での患者さんの右手の位置は2通りあります。1つは、右手首を体側に付ける方法、もう1つは専用の手のせ台を作り、右手を体側から30-45度くらい開く方法です。当院では専用手台を作り、右手を開いてもらっています。しかしこの方法だと、LAO30-40度以上に振ればアームが手台に当たります。当院ではLAO30-40度以上に振るビューを撮影していませんが、LAO60-90度の撮影をする施設では、手台は邪魔になる可能性があります。
ベニヤ板で作った当院の手台です。
A 橈骨動脈穿刺(右、左)
橈骨動脈穿刺の場所は、橈骨動脈が良く触れる所で、手技後の圧迫止血を考えて、あまり手関節のしわに近くない長さ2cm 位の範囲が良い場所だと思います。(具体的には手関節のしわから2~4cmの間ぐらい)
橈骨動脈は、大腿動脈、上腕動脈より細いため、キシロカインを皮下に注入し皮膚を膨隆させるとどんどん触れにくくなり、穿刺条件が悪くなります。そこで、”貼る麻酔”(ペンレス)をあらかじめ橈骨動脈穿刺部に貼っておきます。ペンレスは1〜2時間ぐらい貼ると効きめが良いそうです。
穿刺前にキシロカイン皮下麻酔をするところもありますが、私は奨めません。というのは、皮下麻酔のため皮膚が盛り上がればそれだけ動脈触知が悪くなり、穿刺成功率が落ちるからです。穿刺は第一撃が一番条件が良くて、第二撃、第三撃はどんどん条件が悪くなります。TRAで術者にとって一番のストレスは穿刺です。穿刺が成功すれば、TRAの95%が終わったも同然です。ですから、なるべく最初の一撃で橈骨動脈をゲットするには皮下麻酔は邪魔です。
よく考えてみてください。研修医などが橈骨動脈から動脈血ガス用の採血をする時、あるいは麻酔科医がICUで持続動脈圧を取るために橈骨動脈にカニュレーションする時に皮下麻酔なんかしていますか?TRAの穿刺だって同じ条件です。だから皮膚を膨隆させずに麻酔ができる”ペンレス”がお奨めです。確かヨーロッパでは、貼る麻酔ではないですが塗る麻酔(リドカインゼリー)のTRAにおける麻酔効果の論文が出ていました。もちろん結論は”塗った方が良い”でした。
ただし橈骨動脈をゲットしたあとは、シースを入れる直前にたっぷり皮下麻酔をします。
ペンレスは時々看護婦さんがポイントを外すので、当院では念のため広い範囲に2枚貼ってもらっています。1枚70円ぐらい?
術者は患者の右手と平行に立っても、患者の手首の先の方に直角に立っても良いと思います(どちらでも穿刺しやすい方で)。
左橈骨動脈アプローチの時には患者の左手を軽く曲げて、左手首を患者の左ソケイ部付近に固定し、左大腿動脈穿刺と同じ感覚でします。施設によっては、術者が患者の左側に立つところもあるようですが、アームの位置、モニターの位置を考えないとできません。
橈骨動脈は他の動脈より細く、浅いところにあるので、穿刺針はなるべく細く、短いほうが穿刺しやすく、当院では22Gの短い針で、チョンと刺します。穿刺はより確実な“貫壁穿刺”が良く、“前壁穿刺”を試みてワイヤー挿入に失敗するよりも、“貫壁穿刺”をして確実にワイヤーが血管をとらえる方が良いと思います。貫璧穿刺をしても、橈骨動脈の向こう側からどんどん出血することはありません。
橈骨動脈穿刺は、1回目の穿刺が一番条件が良く、2回目、3回目を回数が多くなるとhematomaなどで穿刺条件がどんどん悪くなります。”最初のうちに確実に橈骨動脈をゲットする”つもりで神経を集中してください。
穿刺に成功したら動脈血のバックフローを確かめ、ワイヤーをそっと挿入し、抵抗がなかったら上腕動脈から肩付近まで通して、本管に入っているかどうかを透視で確認します。抵抗があったら必ず透視で確認して下さい。時々橈骨動脈から上腕動脈に入るときにワイヤーが枝に入ることがありますので気を付けて下さい。
上腕動脈本管に入っていることを確認したら、そのまま穿刺針の外筒を押し込み、その後キシロカインによる皮下麻酔を行います。
穿刺針の外筒を押し込み、皮下麻酔をしています。
その後穿刺針の外筒を抜き、シースを挿入します。皮膚が硬く挿入困難の時はカット針を使用します。必ず皮膚をカットしなければならないなんてことはありません。言わんや、穿刺前に皮膚をカットしておくなんてナンセンスです。
<私は以前カナダのビクトリアであったTRIライブで、ある外国人先生が、皮膚にカットを入れてから穿刺をするのですが、なかなか入らず、結局10回ぐらいカットを入れたのを見ました。そのおかげで、患者の右手首はまるで”自殺未遂のためらい傷”のようになってしまいました。>
シースのフラッシュラインからペパリンを入れます。
橈骨動脈スパスム予防の薬剤(カクテル)は当院では入れていませんが、もし入れるなら、シース挿入前の穿刺針外筒から注入した方が良いと思います。
B シース挿入までの合併症
橈骨動脈が微弱の時はためらわず上腕動脈か大腿動脈穿刺に変更しましょう。初期には橈骨動脈が良く触れるのに、なかなか穿刺できないこともあります。何度も同じ所を穿刺していたら内出血などにより橈骨動脈がますます触れにくくなり、どんどん穿刺条件が悪くなるとともに、術者はパニックに陥ります。そうなる前に穿刺者を変えたほうが良いでしょう(上手、下手ではなく人手を変えれば入ることがあるのです)。
最初は穿刺に苦労していましたが、数10から100例ぐらい穿刺したらコツがわかり、徐々に上手になってきます。
穿刺ができてもワイヤーが本管を肩まで上がらないことがあります。ほとんどが上腕動脈から橈骨動脈と尺骨動脈が分岐するところ(肘付近)の問題です。ワイヤーの先端を曲げたり、他の人が患者の皮膚の上から指で動脈を押したりしてもワイヤーが通過しないときには、穿刺針の外筒から造影をして血管走行を確認して下さい。まれに橈骨動脈(尺骨動脈)がループを形成していることがあるので、その時は無理をせず、別のアプローチに変更します。
また、穿刺が成功後ワイヤーも肩まで上がったことを確認しシースが無事に入ったのに、ガイドワイヤーやカテーテルが上がらないことがあります。これも動脈走行異常ですが、シース付属のワイヤーが細いため、枝を通過し肩まで上がったのを上腕動脈本管と勘違いしるのです。やはり、シース先端またはカテーテル先端から造影して、動脈走行を確認します。
無理だと思ったら決してTRAにこだわることなく、アプローチ法を変えます。例えば、上腕動脈穿刺に変えるなら、同じシステムですぐに変更できます。
このように、途中でアプローチ法を変えなければならなかったのは、術者側の問題、患者側の問題を合わせても5%未満です。