急性期の合併症
@ 橈骨動脈閉塞について
TRA施行後、数週間たった時点のPulselessは初期の頃100例に1例程度ありました。各施設の発表や論文では、800例で1例とかエコーで見たら数%というのがあり、ばらつきがあります。この理由は、橈骨動脈閉塞を何で判定するかということにも関わってきます。橈骨動脈を上腕動脈側から造影しているもの、エコーで確認しているもの、脈拍の触知不能を閉塞としているものなど千差万別です。
最近当院でも確認したのですが、橈骨動脈が触れるのに橈骨動脈造影で閉塞を確認した例がありました。これは、手首のしわの上で触れる脈は、橈骨動脈が閉塞していても尺骨動脈からのループで触れるのです。手首のしわの上の狭い部分でしか脈が触れない場合は橈骨動脈が閉塞している可能性があります。
また論文によれば、翌日(急性期)に閉塞していても、その内数十%は慢性期には開存しているらしいです。逆も言えるらしく、橈骨動脈の閉塞率はいつの時点での閉塞かでも違うようです。
急性期の閉塞率には、橈骨動脈径とシース外径の比だけではなく、ヘパリンの量、手技時間、圧迫止血で橈骨動脈の血流を止めるような強い圧迫かどうかなどが複雑にからんでいます。
ただし、橈骨動脈が閉塞していても尺骨動脈の血流があれば、臨床的には手のしびれや冷感は全くありません。これは、最近左橈骨動脈を採取した後、バイパスグラフトとして使用する心臓バイパス手術が行われるようになったのに、心臓外科の先生は”手の機能などには全く問題ない”と発言されていることからも裏づけられます。ということは、橈骨動脈など元々必要ない血管なのでしょうか?
A 神経損傷や皮下血腫
上腕動脈穿刺で問題となるのは内出血や上腕神経損傷などです。上腕神経が解剖学的に上腕動脈に近いため、術後の内出血による神経圧迫が原因と言われています。
TRAでは、橈骨動脈が浅く、圧迫時に的確に動脈圧迫ができるので、内出血は上腕動脈穿刺や大腿動脈穿刺と比べ圧倒的に少ない上に、解剖学的に橈骨神経が橈骨動脈から離れてるので、長い圧迫さえしなければ神経損傷の心配はほとんどありません。
B ワイヤー操作による小動脈穿孔
TRAでは、ワイヤーを橈骨動脈から上腕動脈に通すとき時々小動脈(側枝)に入ることがあります。その時術者はワイヤーに抵抗を感じるので注意が必要です。急がず、透視を見ながらゆっくり操作すればクリアー出来るし、穿刺針の外筒から造影して血管走行を確認するもの良いでしょう。
しかし、それでも小動脈を穿孔することがあります。当院でも今までに2例ありました。手技中はカテーテルやシースでフローがないせいか、血腫は出現しません。しかし、術後の圧迫止血のときに、上腕から橈骨動脈分岐付近がみるみる腫れ上がってきたのです。すぐに血圧測定用のマンシェットを巻き、圧迫したところ1〜2時間で出血は完全に止まります。あとに幾らかの血腫が残るだけです。
大腿動脈穿刺でも同じようにワイヤーによる動脈穿孔で後腹膜に出血することがあり、時々学会で死亡例を含めて報告がありますが、大腿動脈アプローチではこの合併症に気づくのが遅れること、有効な圧迫止血法がないことが輸血を含む重大な合併症になっていると思われます。これに対して、同じ合併症が起こってもTRAではすぐに発見でき、さらに外部からの圧迫による止血が可能ですので、輸血や死亡につながるような大出血はないと思います。