TRA反対派

@ 患者さんは不満を言わない?
1、私は7年前、大腿8Fr.アプローチのよるPTCA患者のシースを抜去し、用手圧迫をしている時、患者さんに感謝されました。
”先生、今は胸を切らずに心臓の手術が出来るようになったんですね。まる1日寝ておくだけで済むなんて、本当にありがたい・・・”と。

2、私は5年前、大腿動脈から6Fr.でPTCAを行い、そのシース抜去後用手圧迫をしている時、患者さんに感謝されました。
”先生、前と比べて動けない時間が少なくて済むのですね。ありがたいですね・・・“と。

3、私は4年前、上腕動脈からPTCAを行い、退院するとき患者さんに感謝されました。
”先生、今回は足が動かせたので大変楽でした。トイレも行けたし。腕からしてもらってホントによかった・・・”と。

4、私は3年前、橈骨動脈からPTCAを行い、退院するとき患者さんに感謝されました。
”先生、今回は治療後に肘を曲げることができたので大変楽でした。前回は術後の圧迫で肘が痛くて痛くて、何度も痛み止めを飲みましたからね。医学も進みましたねえ・・・”と。

5、私は2年前、橈骨動脈からPTCAを行い、その患者のアダプティを緩めるとき感謝されました。
”先生、こんどのベルトはいいですねえ。3カ月前の時はテープ(ステップティP)だったけど、皮膚が負けて皮が剥がれて、退院した後も家で消毒していました。今度のは手も腫れないし、皮膚も負けないのでいいですね・・・”と。

 以上のように多くの患者さんは、”心臓の治療をするのにこれくらいのことは我慢するのが当然だ”と思っているので、術後にいろんな自由が奪われたり、医者が勝手に、”これくらいは心臓の治療に比べて取るに足らないことだから、当然我慢すべきだ”と思っている点に対して、面と向かっては不満を言いません。

 もし看護婦さんに不満を言ったとしても、主治医には言いません。もし主治医に言ったとしても、もっと上の先生(チーフクラスの先生)には絶対言いません。このような病院内の階級格差があれば、チーフドクタークラスには患者さんの自由を奪うことや、術後の痛みへの不満が聞こえて来ないことが多々あるのです。しかし、次の機会にその不満が少し解消されたなら、その時に初めて患者さんは言うのです、”実は、前回はきつかったんですよ、でも今回は楽でした・・・”と。

A 患者さんは不満を言う?

 この階級格差の話をある私立の病院でTRAを始められた先生に話したところ、”先生、それは当院では違います。患者さんは不満を言います。それは患者さんの意識の中に病院格差があるからです”と言われました。

 その話の内容は、公立の大きな病院や、紹介されて検査治療をする大学病院などでは、患者さんはなかなか不満を言わないものですが、同じ痛み、同じ不満でも個人病院では声を大にして”痛い”と言う患者さんがいるということでした。その先生はさらに、”個人病院では、あそこで検査したら痛いという評判は致命的で、検査で得られる情報や治療の結果が同じなら、患者さんに楽な方法を選択せざるを得ない。だからTRAを始めるのです。”と続けられました。
 このように、病院の違い(同じ医者でも病院のビルが大きいか小さいか、大学か公立か私立かの違い)で不満を言ったり言わなかったりするのが患者心理のようです。

B TRA反対派

 TRAに大反対の先生方もいらっしゃいます。”大腿動脈から8Fr.で安全なPTCAができているのに、わざわざ橈骨動脈に変える必要がない”というのが反対の主な理由のようです。

 しかし、そうおっしゃる先生は、ほとんどが大きな有名な病院のチーフフラスの先生で、
1、病院への信頼から患者が不満を言わない。(病院格差)
2、患者の不満が聞こえるのは下の階級まで(階級格差)
のため、患者さんの不満が聞こえてこない身分の先生方のようです。

 実際にTRAをされた後、“合併症や手技の問題でTRAは良くない、止めるべきだ”と発言されている先生はほとんどいません。反対されている先生方はTRAをしたことがない先生方ばかりです。
 TRAをされているある先生は、“患者にいい、医者にもいい、看護も楽になった、合併症もほとんどない、だから、TRAが広まらない理由はなにもない”と言われていました。“TRAは、一度始めたら止められないね”というのが本音のようです。

C TRA推進派の意見       

低侵襲の方がいいに決まっている
 これもある先生の意見です。
”TRIは低侵襲というう点でバイパス術に明らかに勝っている。だから、多枝病変や左主幹部病変でバイパス術の方が良いという主張をするならば、心臓外科医の方からその根拠を示せば良いのであって、我々の方からわざわざ論戦を仕掛ける必要などない。”
”我々は、今までと全く違うやり方の新しい治療を始めたのだから、過去のやり方と同じ土俵に乗って論議する必要などない。”
 これらの意見は過激に見えますが、その裏には”TRAやTRIは患者さんにとって絶対に良い方法であるので、将来必ず主流になる”という確信があるようです。

世代間の抗争?

 TRAに興味を持ち、自分たちもやってみたいと考えられている”若い”先生方は多くいらっしゃいます。しかし、冠動脈インターベンション第1世代でいらっしゃる各地の重鎮の先生方(その病院のカテ室のすべての実権を握っている)のなかには、前述したように、患者の不満が聞こえてこない先生方も多く、”TRAなど必要ない”と若い先生方の興味や情熱に蓋をしている先生もいると聞きます。となれば、この戦いはいつの時代にもある”世代間の抗争”ということになり、将来世代が代わることによってその蓋は取られるのでしょう。

自分や家族が患者だったら

 その患者さんが自分の親や家族だったらと考えて、最良の治療法や方針を立てるとき、その先生は患者さんに大変誠実に接していらっしゃると思います。その方針は患者の年齢、日常生活での活動状況(自分でどこまでできるか)、過去の病歴、本人の希望などをだけではなく、医者本人の知識、技術、院内や紹介病院の心臓外科の技量などを加味して決められます。ですから、2枝3枝でもケースバイケースで選択されるのです。その時橈骨動脈からのプローチ法を持っていると持っていないとでは方針が変わることも十分ありえます。例えば、左主幹部近辺の病変や、慢性閉塞病変を含む多枝病変などではバイパス術を選択するが、ステント挿入が可能な病変のみの多枝病変ならTRIにてPTCAを選択するなどです。
 2枝だから、3枝だからといって、杓子定規に線引きしてバイパスに回すかどうかを学会で議論しても、答えは“ケースバイケース”に決まっています。だから、
医師自身にも常に最新の知識、情報を勉強する義務があります。