TRAのいろんな側面と将来

@ 患者さんから見たTRA

 患者さんにとってTRAはどうでしょうか。
 大腿動脈や上腕動脈アプローチを経験した後TRAを経験した患者のほとんどが次回もTRAを希望します。それだけ術後が楽だったということです。術直後から安静度はほぼフリーで、カテ室までも車椅子で往復できます。TRAは患者さんの術後の苦痛を軽減する効果が大きいと考えられます。
  診断カテーテルやPTCAでも得られる結果が同じならば患者が楽な方が良いに決まっています。大腿動脈アプローチではソケイ部の剃毛も必要で、PTCA後3カ月、6カ月後に大腿動脈から診断造影をするなら、”先生、毛の生える間もなかよ”と皮肉を言われてしまいます。
  自分が患者になって診断カテを受けなければならなくなったと考えてみて下さい。どこからの造影を希望するか・・・・


A 看護婦さんから見たTRA

 病棟担当の看護婦さんから見ると、TRAは大腿アプローチと比べ、患者の安静度がフリーなので、食事やトイレなどの介助の仕事がほとんどありません。また、圧迫痛を訴える患者も少なく、術後のバイタルチェックの時間も短く済みます。カテ室への患者出し入れも車椅子で十分です。このようにTRAは、病棟の看護婦業務を軽減する効果も大きいのです。
 また、圧迫止血帯も選択しだいでは、看護婦さんの術後合併症観察が楽になります。

B 主治医、術者から見たTRA

 TRAの穿刺は慣れるまで術者はストレスを感じるでしょう。これが欠点ですが、TRAでは穿刺がうまく行けばもう95%終わったようなもので、慣れるまでの辛抱です。しかし、TRA後は用手圧迫がなく、病棟で患者に圧迫痛を訴えられることもありません。上腕動脈アプローチの頃は、術後患者が痛がると何度も病棟に呼ばれ、その都度圧迫を少し緩めたりしていましたが、TRAになってからは呼ばれることはほとんどありません。また、術後の出血性合併症も少ないので、主治医や術者にとっても術後の労働や合併症による精神的ストレス軽減に絶大な効果があります。

 ただ、今までにはなかった橈骨動脈スパスムへの対策が必要です。

C 包括医療とTRA

 数年後の実施に向けて、包括医療の実験が1998年11月から全国10の病院で行われています。この制度は、増加し続ける医療費の抑制をねらって行われるもでで、1回の入院に1病名をつけて、そので国が“OO万円”を支払い、病院はその金額内で退院させれば、その差額は病院の儲け、それ以上かかれば病院の損というものです。狭心症だと現在40万円ぐらいと聞いています。

 この制度がすでに導入されているアメリカなどでは、入院期間を短くし患者の回転を上げる方が病院経営にとって有利に働くようです。その意味では、入院期間を短縮できる、あるいは外来カテーテルが可能なTRAはこの方針とも合致します。

D 日帰りカテ

 すでに実施している病院がいくつもあると聞きますが、朝からTRA(TRI)をすれば、昼過ぎには圧迫もとれて、主治医が検査結果の説明をした後、夕方までには帰宅できます。自分自身のことで考えてみて下さい。同じ検査をするのに4〜6人部屋に入院して、看護婦さんに下の毛を剃られて1〜2泊させられるのと、会社を1日休めば手首から検査してもらって、夕方には自宅に帰れるのでは、どちらを選択したくなるかは明白です。
    
E 決してTRAにこだわってはいけない

 このようにTRA を初めてから、新たなテクニックを修得すると共に、検査や治療方針も変わってきました。しかし、決してTRAにこだわる必要もありません。現在当院では、左右の大腿動脈、右上腕動脈、左右の橈骨動脈と冠動脈にアプローチする方法を5通り持っています。そのどこからも冠動脈造影やPTCAができる技術を身につけていれば、その時の患者の状態、動脈触知の有無などを総合判断して、患者さんにベストのアプローチ法を選択できるのです。橈骨動脈が細そうだったら上腕動脈を選択してみたり、急性心筋梗塞でショック状態であれば、IABPを併用しながら大腿動脈からアプローチすれば良いのです。このようにケースバイケースでアプローチ法を選択するという柔軟でスマートな考えを持つインターベンショナリストがカッコイイのです。