止血法の考え方

TRAの止血法(考え方)がTFAやTBAと異なる点

最近各地の学会にもコ・メディカルのセッションが増え、看護婦さん、技師さんたちの発表も活発に行われだし、非常に結構なことだと思いますが、最近疑問に思うことがあります。それは、看護婦さんたちのカテーテル術後の患者さんの安楽、安静度向上に関する研究のことです。

この分野の発表は、TBA(famoralから)、TBA(brachialから)、TRA(radialから)の術後患者に対して、1,圧迫時間の短縮、2,患者の痛みの軽減、3,身体の可動範囲などの拡大 を目的として、それぞれが独自の工夫をしていることを発表するものです。

そもそもなぜこのような工夫が必要なのでしょうか。それは、TFAやTBAが術後患者に長時間の苦痛を与えてきたからです。この3つのアプローチ法の圧迫止血が異なる点の原因は、1,皮膚から各動脈までの深さ、 2,関節部位かどうか 3,動脈の太さ の違いです。この違いがあるために、以下のように止血に関する合併症が異なります。

1,動脈が深い:止血が不十分な場合、出血しても気づきにくいので巨大血腫を作ることがある。TFAでは後腹膜に出血した場合それに気づくのに遅れ、失血性ショックに陥ることがある。TBAでは正中神経が近いので、その血腫が神経を圧迫して神経損傷をおこす可能性がある。

2,関節部位:関節が近い場合、関節を動かしたときに圧迫がずれることがある。TFAでは股関節の可動が制限されるために膝を曲げてはならない。TBAでは肘関節の可動を制限するためにシーネなどと当て、肘を伸ばしておくように指導する。

3,動脈の太さ:動脈が細いと術後に閉塞する可能性がある。TRAでは2〜5%で閉塞すると言われている。

以上のようにTRAでは動脈が浅いこと、関節を避けられることは有利に働き、動脈が細いことが不利に働いています。だから、TRAの圧迫止血の大原則は、”なるべく動脈閉塞を少なくする方法”をとるべきです。そして、この原則に沿って作られたのが”とめ太くん”、”アダプティ”、”ラディスポ”だと思います。私はTRAにとめ太くんを使用した経験がないので、アダプティ(ラディスポも同じ)についてあえて発言しますが、”アダプティの止血時間を短くするような工夫はナンセンス”と考えます。

止血にかかる時間は、1,患者自身の出血傾向、血液凝固能(使用したヘパリンの量も含めて)、 2,圧迫止血の強さ、により規定されます。1,に関しては各患者で計測することは事実上不可能ですので、実際は術者の圧迫の強さによって規定されてしまいます。だから、止血にかかる時間を短くしたいと考えるならば、圧迫止血を強く(橈骨動脈の血流を遮断する止血)すれば、おそらく30分で止血できるでしょう。しかし、それでは橈骨動脈の閉塞率と患者の痛みが増加します。

アダプティ、ラディスポは圧迫の強さを強くしたり弱くしたりする調節がいつでもできます。ですから、

1,橈骨動脈の流れを遮断しない程度の強さで止血する。(止血器の上下の橈骨動脈触知を確認する)

2,初めから安静度フリーで患者の痛みも少ないので、確実に止血するためには長めにしても構わない。

という方針で臨むべきです。うちのプロトコールでは、TRA後のアダプティ装着は6Fr. で4時間、5Fr.で3時間にしていますが、そこで解除はしません、緩めるだけです。もしそこで圧迫を取って出血した場合、それが動脈性の出血(止血が完全ではない)なのか穿刺点付近の静脈性の出血(動脈止血はできている)なのかの区別を看護婦さんはつけません。すべてを出血(合併症)と見てしまいます。これでは現場が混乱することがあるので、あえて解除せず、ゆるゆるに緩めるだけにします。患者さんにとっては腕時計をしているのと同じです。さらに数時間が経過してから(あるいは翌朝)解除してカットバンに貼り替えます。

<結論:TRAの圧迫止血は血流を遮断せず、”緩めに、長めに”がbetter。>

<追記>

一生懸命されている看護婦たちには申し訳けないのですが、発表の中の”TRAではこうすれば○時間で圧迫解除可能”というのは、看護婦さんたちの工夫よりも術者の圧迫の強さによる影響の方が大きいと思いますので、術者の圧迫の強さを同じと仮定して”ウチなら2時間で解除可能”というのは他病院の参考になるかどうか・・・・。ただし、圧を客観的に観ることができるとめ太くんなら比較が可能だと思います。