TRAと右心カテ
大腿動脈アプローチによる診断カテは従来左心カテと右心カテとの組み合わせで行われてきました。右心カテの場合も(左心カテほどではないですが)そこそこの手技料が請求できるため、同時に行えばそう手間もかからず収益を増やすことができます。
しかし、”患者さんがなるべく楽なように”と考えて始めたTRAでは右心カテのあつかいが問題になります。というのは、同じ橈骨部からは同時に左心カテと右心カテはできないので、右心カテは別のアプローチを選択しなければならないからです。具体的には、1,大腿静脈 2,右内頚静脈 3,左右の肘静脈 の3つのアプローチが考えられます。
1,大腿静脈アプローチ
大腿静脈から行っても静脈系の穿刺だけなら術後の安静時間は1時間ほどで済みます。しかし、左心カテをTRAに移行しても右心カテだけソケイ部穿刺で行えば、ソケイ部剃毛の問題もあり、左心カテのTRA移行の意義が薄れてしまいます。
2,右内頚静脈アプローチ
とにかくソケイ部穿刺を避けたいなら、右心カテで比較的確実に施行できるのは右内頚静脈アプローチです。ここの穿刺に慣れることは研修医にとってはIVHルート確保、1次ページングの手技にも必要なので、教育を兼ねて若い先生達には覚えてもらわねばならない穿刺手技です。
3,左右の肘静脈アプローチ
とにかく”患者さんにとって低侵襲、楽な方法”を選択したいと考えるなら、肘静脈アプローチです。TRA穿刺と同側の肘静脈から主に6Fr.システムで右心カテをします。この方法の問題点は、静脈奇形が多く穿刺成功率が80%程度であることと、スワンガンツカテーテルが上大静脈まで入って行かず、細いワイヤーを使用しないといけない時がたまにあることです。ただ、左手からのTRA、右心カテなら血管走行の関係からワイヤーなど使用せずに上大静脈にスワンガンツカテーテルが入って行く可能性は高いと思います。
4,右心カテの必要性と頻度
右心カテが診療上どれくらい必要かという問題と、病院収益の問題の間に挟まれて苦悩していらっしゃる先生方もいると聞きます。しかし、21世紀の医療は、”患者さんへの侵襲と医療結果”と”かかったコストに対する医療結果”が確実に問われる時代です。患者さんへの侵襲、コスト、得られる結果の3つの柱で調和した3角形を作り、良いパフォーマンスを目指さなければなりません。だから、直近の病院の収益も大事ですが、長い目で見ると”患者さんにとって本当に必要な最小限の検査、治療を選択する”医療が正しいのです。厚生省は近い将来”包括医療制度(いわゆるまるめ)”を導入するでしょう。その時には右心カテは必要最小限しか行われなくなり、件数は今の1/10程度まで激減すると思っています。どうせそうなら左心カテにTRAを導入するにあたり、”右心カテは本当に必要な症例のみ右内頚静脈から施行する”ぐらいの方針でいかかでしょうか?